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T生産方式を単なるパッケージの手法としてのみ導入した企業では、しばしばこのいちばん基本的なT生産方式の性格を忘れたままで、強制と管理のもとに手法だけを無理やり導入した、というケースが多いからである。
そういう意味での間違った体験をしてきた多くの人々にとって、T生産方式というのは必ずしも好感を持って迎え入れられる対象ではなかった。
本来、他からの強制ではなく、自分自身の発意と管理によってT生産方式の導入を進めていたなら、仮に越えなくてはならないハードルが高くても、やらされ感が出てくることはなかったはずである。
一九九○年に出版された『リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える』(日本版、S・経済界)では、一九八六年のGMフレミンハムエ場とT高岡工場の調査の結果が紹介されてそれによれば、両社の労働者のモラールには著しい相違があるということである。
「作業ペースは高岡のほうが厳しいのは明らかだったが、目的意識があり、単に作業員が班長の監視のもとで働いているのではなかった」と記されている(ただ、従業員に目的意識があるのは終身雇用で完全に職が保障されていることによる、と皮相的に理解されてしまっているのだが)。
労働者のモラールに差があるのは、けっして雇用保障の問題だけではない。
それは、T生産方式が作業者の自己管理を出発点として組み立てられている生産方式だからである。
『ハーバード・ビジネス・レビュー』の論文は、「Tを理解しようとするならば、T生産方式の見えざる手によって『科学者集団』と呼ぶべきものが自然に形成されることを知っておく必要がある」。
またさらに「Tでは厳格な作業規定と組織構造にもかかわらず、命令とコントロールによって作業者を管理したりはしない」。
「実際、現場の作業者たちが持ち場の仕事に打ち込んでいる様子や生産工程を設計するのを手伝っている姿を見ていると、作業者とマネジャーは一種の″実験″に参加しているようで、これはまさしくT生産方式の力なのだという気になる」と述べなぜT生産方式で働く人々が「科学者集団」と呼ばれるのだろうか。
これに対しては次のような仮説を提言している。
すなわち、「いくつかの厳格なルールを持つことにより、かえって自らの自由を獲得する」というものである。
つまり、同じように「ルール」という言葉を使っても、厳格に枠にはめ込んで自由を奪ってしまうのではなく、枠をなくし、軸をしっかりさせることで自由に飛び回ることができるようにされている。
従業員とサプライヤーは、何者も介することなく、直接結びついていなければならない。
また、依頼する場合も応答する場合も、必ずあいまいさを排除したうえでイエスかノーをはっきり考え方である。
では、厳格なルールとはいったいどういうものなのか。
あらゆる生産活動は、その内容、手順、所要時間、この論文によれば、仕上がりについて詳細に規定されていなければならない。
T生産方式は、その生産活動のなかに二つの機能をビルトインしている。
その一つはジャスト・イン・タイムの機能であり、もうひとつは継続的に改善(改革)をし続ける仕組みである。
この継続的に改善をし続ける仕組みというのは、言い換えれば「人の育成の仕組み」でもあり、まさに企業革命である。
T生産方式を単に一つの改善方式と見るならば、このような見方も可能なのだろうが、われわれは、単なる改善方式というよりも、企業を進化させていくT方式というものがそこにある、と考えている。
企業を進化させていくという意味でTの企業革新方式を見るならば、ルールの中身は当然のことながら違ったものになると考えられる。
させなければならない。
すべての資材および支援は、面倒なくかつ直接提供されなければならない。
どのような改善も、教える側の指導に従いながら、科学的アプローチに基づいて、可能な限り現場で実行されなければならない。
という四つのルールを挙げている。
その最もT的な行動規範を、Kは「まずはやってみよう」という姿勢を多くの人が共有していることだ、と考えている。
これはすでに述べたT式「シナリオ展開」のことである。
まずはやってみよう、という例はいくらでもある。
K自身もそういうことを数多く体験している。
Kの経験を述べてみよう。
Tグループでは毎月、工程別の生産性評価の成績表を出していた。
Kの会社で次のようなことがあった。
当時、溶接工程でTの自働化率(溶接をロボットで行う率)が九五%くらいであったのに対し、Kの会社では八五%くらいであった。
生産性評価は、工数、つまりどれだけ人手がかかったかで評価され、自働化率の条件は加味されていなかった。
当然、いつもKの会社はTに負けていたわけである。
ある日、一人の溶接工程の監督者がKのところにきて「この評価方法はおかしい。
自働化率が違えば勝てるはずがない」と抗議した。
たしかにそれはそうなので、Kはいろいろ考えたうえ、次のような指示を出すことにした。
「今後、溶接工程に一個たりともパレットを置いてはならない。
パレットレスの工場にしよう」パレットとはフォークリフトで扱うプレス品を載せる台のことである。
溶接工程には何百とある。
先の四つのルールからだけでは、Tの従業員がさながら実験をしているようだというその行動様式は、必ずしもできてくるようには思えないし、科学者集団にもなりえないように思われる。
Tの人々があたかも科学者の集団のような行動様式をとるのには、それなりの行動規範があるはずでレットが置かれている。
それをゼロにしろ、という指示を出したわけだから、もしT以外の企業であれば、そんな夢みたいな話はできるはずはないという反応になるだろう。
しかしKの会社では、指示を出したその日から、監督者たちがどうしたらゼロにできるかという検討に入っていった。
まず一点選んで、フォークリフトで運んできて、プレス品のみを現場に残してパレットは持って帰るというトライをしてみた。
どうもうまくいかない。
そこでパレットを少し改造してみて再度トライをしてみた。
そこで、こうしたらできそうだという可能性が見えてきた。
結論的には、三カ月後には一○%くらいのパレットが減少した。
溶接準備は、パレットからプレス品を取り出して溶接設備にセットする作業を人間がしていたわけである。
なぜ人が必要かと言えば、それはパレットからプレス品を取り出すという作業の自働化ができなかったことによる。
プレス品だけが置かれていれば、人手を掛けずに自動的にセットすることも可能となる。
溶接工程の自働化率で負けていたKの会社も、準備作業の自働化率を上げることで六ヵ月くらい後にはTに勝てる値が出るようになった。
なぜ、このような「まずはやってみよう」という行動を抵抗なくTの人間はとるのだろう。
そのルーツはT生産方式のなかでも最も初期の頃から重要な役割を果たしてきたO氏が言い出した、三分間段取り替えの経験が語り継がれていることにもあるようだ、とSは見ている。
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